2020年4月
ILO申立4労組(連帯・杉並、ユニオンらくだ、連帯・板橋区パート、あぱけん神戸)
2017年5月の申立から足掛け3年、私たちの取り組みがようやく結実しました。協力いただいた多くの皆さんと共に、この成果を今後に生かしていきたいと思います。
◆ ふたつの大きな成果!
1 「非正規公務員の労働基本権問題」が初めて取り上げられたこと!
専門家委員会「見解」の要旨は、①非正規自治体公務員から労働基本権を奪わないよう、②「自律的労使関係システム」をすみやかに検討し、③取られた措置の詳細を報告するよう求める、というものです。ILOが初めて、真正面から非正規公務員の労働基本権問題を取り上げた点で画期的なものです。「任用の適正化と処遇改善」などと言い逃れようとした政府のダメージは大きいはずです。
2 「期限を区切った行動計画の緻密化と行われた進展の報告」を求めたこと!
2018年のILO総会の「基準適用委員会」で、日本政府は「(労働基本権保障に向けた)期限を区切った行動計画」の策定を促されました。11回にも及ぶ勧告を無視し続ける日本政府に対して、ILOが業を煮やした(?)カタチです。しかしその後も2年間にわたり、政府は計画策定をサボり続けてきました。今回さらに「強く」ILOから、「非正規公務員の労働基本権問題」を含めた「行動計画」提出を促され、政府はさらに追い込まれています。
◆ この勧告を活かした取り組みを!
私たちにとって充分な内容の勧告が出された、と評価しています。「公務員全体の労働基本権回復」の中に埋没することなく、非正規公務員に焦点を当てた具体的な勧告が出されたことを、皆さんと共に喜びたいと思います。
憲法98条2項に「条約及び確立された国際法規の誠実遵守義務」が定められているにもかかわらず、日本政府は、「勧告に法的拘束力はない」として、居直り続けてきました。しかし、11次の勧告に加えて「行動計画の策定」まで求められ、政府が国際的に追い込まれていることは確実です。今後の課題は、国内の運動の力を着実に積み上げて行くことにあります。
新型コロナウィルス感染問題もあり活動が思うように進まず、私たちの具体的な取り組みが遅れています。ILO総会も来年に延期となりました。まずはこの成果を多くの仲間と共有し、非正規公務員の労働基本権確立に向けた取り組みを着実に進めて行きたいと考えています。
★ 今後とも、ご協力~ご注目をよろしくお願いいたします。
【専門家委員会の見解-関連部分の抜粋】 翻訳:4労組、監修:Charles Weathers
<日本>
●「結社の自由及び団結権保護」条約、1948(No. 87)(日本批准:1965)
委員会は、政府の報告書とともに送信された日本労働組合総連合会(JTUC-RENGO)による見解と、政府のそれに対する回答に留意する。 JTUC-RENGOは、ILO100周年の機会に、2019年6月26日に国会により採択された「日本のILOへの貢献の増加に関する決議」の手始めとして、政府がこの条約実現の問題に取り組むことを当初は期待していたことを示した。決議において、国会は、「ILOの基本原理、国際労働基準、三者構成主義やディーセント・ワークの目標を達成するために果たすべき役割がますます大きくなっていることを認め、国はILOで活動するべき役割の新たな重要性を認識している。将来的にはこれらの原理の追求と実現に、世界の他の加盟国とともに最大限に貢献し続けることを決意する」と記している。しかし、JTUC-RENGOは、政府の報告書が現在の法制度内の問題を解決する意志の明らかな欠如を残念に思っている。
委員会はまた、連帯・杉並、あぱけん神戸(アルバイト・派遣・パート非正規等労働組合)、連帯労働者組合・板橋区パート、ユニオンらくだ(京都市自治体関連労働者自立組合)の地方公務員とその組合を組織する権利に関連して、2019年7月19日に受領した見解にも留意する。委員会は、2019年8月30日に受け取った国際使用者連盟(IOE)および日本経済団体連合会(日本経団連)の見解と、それに対する政府の回答に留意する。
(中略)
さらに、委員会は、連帯労働者組合とあぱけん神戸が2020年4月から施行する地方公務員法改正が彼らの組織する権利に及ぼす衝撃について、次のように述べていることに留意する。
(i)非正規の地方公務員とその組合は、労働基本権と不当労働行為が疑われた場合に労働委員会に訴える能力を規定する一般労働法の適用対象ではない。(ii)恒常的業務にパートタイム職員の使用を制限することを目的とした法改正は、労働基本権を剥奪された労働者を増加させる効果がある。 (iii)これらの状況は、すべての公務員に対する労働基本権の緊急の回復をさらに要求する。
委員会は、地位の変更がパートタイム職員の待遇を改善するのに役立つと主張する政府の回答に留意する一方で、これらの法改正は、もはや条約に基づいた権利を完全に保障されない公共部門労働者のカテゴリーを広げる結果になるとみている。
したがって、委員会は、自治体の労働組合が、これらの法改正の導入を通じて彼らが長年保持してきた労働組合の権利を奪われないようにするために、自律的労使関係システムのすみやかなる検討を政府に要請する。この点に関して取られたまたは想定される措置に関する詳細情報を提供するよう政府に要請する。
自律的労使関係システムに関する必要な措置を講じる上で有意義な進展がないことを含む総会委員会の結論を想起し、委員会は政府に対し、関係する社会的パートナーと協議して、上記の勧告を実施するための「期限を区切った行動計画」を緻密化し、とるべきあるいは想定されるあらゆる方策について示すこと、及びこの点で行われた進展を報告すること、を強く促す。
【コメント】
①11次の労働基本権勧告
・2002年の2月に連合、3月に全労連、と相次いで「結社の自由委員会」に提訴。その契機は2001年に閣議決定された「公務員制度改革大綱」(人事院の役割を大幅に縮小し、内閣の人事管理権限のみを強化する)にあった。
・2002年の秋には早くも第1次の勧告が出され、以降、2003年、2006年、2008年、2009年、2010年、2012年、2013年、2014年、2016年、2018年と11次の勧告が出されてきた。
② 「期限を区切った行動計画」の策定を勧告
・2018年6月総会の「基準適用委員会」で、政府に対して「期限を区切った行動計画」策定を促し、その年の11月の「専門家委員会」に計画書の提出を求めた。
・「基準適用委員会」での論議の焦点は、消防職員と刑事施設職員への団結権保障にあった。労働者側のみならず、ノルウェー政府代表からも団結権保障を強く求められた。
・しかし政府は、2018年、2019年ともに計画書の提出を行わず、従来の主張を繰り返すのみである。
③ 非正規公務員の労働基本権勧告
・私たちの申し立てに基づき、2019年の「専門家委員会」で、初めて非正規自治体公務員の労働基本権問題が取り上げられ、「期限を区切った行動計画」に盛り込むことが求められている。
・2020年6月総会「基準適用委員会」での論議に注目していたが、全く残念なことにコロナ問題で1年延期となってしまった。11月の「専門家委員会」の開催も危ぶまれる状況である。
【参考資料Ⅰ 参院決議(衆院決議も同文です。)】
令和元年6月26日
参議院本会議
本年、国際労働機関(ILO)は記念すべき創設百周年を迎えた。
第一次世界大戦終了後の千九百十九年に創設されたILOは、憲章前文に掲げる「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」との普遍的理念の下、国際労働基準の策定や開発協力などの活動を通じ、労働条件や雇用環境の改善と向上、働くことに関わる基本的権利の確立に尽力し、着実にその歴史を刻んできた。
現在では世界百八十七もの国々が加盟するILOは、国連機関としては唯一、加盟国の政府、労働者及び使用者の三者代表によって意思決定と組織の運営が行われており、我が国を含め、加盟国内における三者構成主義の確立に大きな役割を果たしてきたことは特筆に値する。
ILOの原加盟国の一つであり、千九百五十四年以来常任理事国の地位を占めている我が国も、長年にわたってILOの重要な一翼を担い、国内外でILO活動の推進を積極的に牽引してきたところであり、国際社会からは今後のさらなる貢献が強く期待されている。
千九百九十八年に採択された「労働における基本的な原則及び権利に関するILO宣言」では、加盟国が尊重・遵守すべき四つの基本的権利に関する原則が定められ、それに対応する八つの基本条約についてその批准と履行に向けた国際的な努力が続けられてきた。我が国も、その取組に協力してきたが、八つの基本条約のうち、未批准の案件については、引き続きその批准について努力を行うとともに、既批准条約の確実な履行に向けても国際社会とともに一層の努力を傾注していかなければならない。
また、千九百九十九年に新たな戦略目標に位置付けられた「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」は、二千十五年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも目標の一つに掲げられている。今後、国際的な達成努力への貢献はもとより、国内においても働き方改革の達成目標と位置付け、「仕事の未来」をも見据えて国際社会をリードする取組を政労使の努力で実行していくことをここに確認する。
今後、グローバル化や情報化が一層その規模とスピードを増し、「働き方」の多様化や国内外の人の移動もスケールと複雑さを増していく。その中で、ILOの基本理念や国際労働基準、三者構成主義やディーセント・ワーク目標が果たすべき役割がますます大きくなることに鑑み、ここに本院は、改めて我が国がILOにおいて果たすべき役割と責務の重要性を確認し、ILOの次なる百年の発展と活動の展開に向け、これからも世界の加盟国と共にその理念の追求と実現のために最大限の貢献をしていく決意をここに表明する。
右決議する。 (猪口邦子君外七名発議)
【私たちの申し立てに対する日本政府の弁明書】
2019年9月10日のILO第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約) に関する日本政府報告への追加情報
2019年7月1日付けの連帯・杉並からILO条約勧告適用専門家委員会宛の意見に関し、日本政府は、以下のとおり追加情報を提出する。
1 2017年の地方公務員法及び地方自治法の一部改正について
2017年の地方公務員法及び地方自治法の一部改正は、臨時・非常勤職員の任用の適正化を図るものである。具体的には、特別職の任用及び臨時的任用の適正を確保し、並びに一般職の非常勤職員の任用等に関する制度の明確化を図るとともに、一般職の非常勤職員に対する給付について規定の整備を行っている。
改正法で特別職の任用の適正の確保が図られたことにより、本来の制度趣旨に鑑みれば特別職として任用されるべきではなかった者については、一般職へ移行することとなる。これに伴い、労働基本権の態様が変化することとなるが、あくまで本来制度が想定していた任用の適正が確保されたことによるものである。
そのため、改正法が臨時・非常勤職員から労働基本権を奪うものであるという連帯・杉並の指摘は誤りである。
なお、特別職から一般職の非常勤職員へ移行することで、常勤の職員と同様に地方公務員法上の身分保障や必要な給付を受けることが可能となることから、今回の改正はむしろ臨時・非常勤職員の処遇改善に資する改正であると認識している。
2 2018年のILO総会基準適用委員会日本案件第87号条約個別審査議長集約について
地方公務員の労働基本権については、国家公務員制度改革基本法附則第2条において、「国家公務員の労使関係制度に係る措置に併せ、これと整合性をもって、検討する」とされており、2018年ILO総会基準適用委員会議長集約における要請に対する日本政府の報告で述べた国家公務員の検討を踏まえて、職員団体等の意見も伺いながら、慎重に検討していくこととなる。